院長・スタッフのコラム

2006年12月号

口臭治療 その12 他人の口臭に対する人の行動

皆さんは、どんな時に他人の口臭が気になりますか?私は診療時以外では、スーパーのレジで精算をする時、スポーツクラブの室内プール、内科・眼科などで対面で診察を受ける時、通勤ラッシュの電車の中などで他人の口臭を感じる時があります。

八重垣らの調査によりますと、「自分の口臭が気になる人」はわずか19%であるのに対し、「他人の口臭を気にする人」は43%にもなるそうです。全体としては、他人の口臭は気にしても、自分の口臭は気にならない人が多いということでしょうか。  そして他人の口臭が気になる時、人はどういう行動をとるのでしょうか。彼らの調査では、1位:相手との距離を保つ(53%)、2位:顔をそむける(10%)、3位:手で鼻をおおう(3%)となっています。つまり相手との距離を保つという行動が圧倒的に多いということになります。

ところで当院では口臭治療を始めるに当って、患者さんにはまず口臭アンケートにお答えいただいております。その中に「どのようにしてご自分の口臭に気づきましたか?」という質問で、「他人のしぐさ」にチェックを入れられる場合が多く見られます。しかし先に述べたように実際には、あからさまに他人に対して顔をそむけたり、手で鼻をおおうという行動をとる人は非常に少ないといえます。もし相手のこれらのしぐさから、自分には口臭があるのではと、思い悩んでいる方がおられるとしたら、思い過ごしである場合が非常に多いと考えられます。

こういったことからも分かるように口臭症は社会性の強い病気です。さらに口臭症は歯周病原性、発ガン性や老化の促進に関係している病気であることを、いずれお話しましょう。

本年のコラムは今回で終了です。1年間ご愛読いただきありがとうございました。 来年もみなさまに有益な情報を提供できるよう、努力してまいります。 もしお知りになりたい事柄等がございましたら、メールにてお知らせください。

<院長>

2006年11月号

口臭治療 その11 口臭予防洗口液について part2

当院では、“ハイザック”と“クロシスⅡ”の2種類の口臭予防洗口液を取り扱っておりますが、これらは市販のものと比べると、かなり効果が期待できます。

ハイザック

リンスタイプとスプレータイプがありますが、有効成分は同じです。成分には国産のリンスでは初めてとなる塩化亜鉛が0.1%、また、歯周病菌を抑えるクロルヘキシジン、歯肉の炎症を抑えるアルクロキサも配合されています。この塩化亜鉛が揮発性硫黄化合物(口臭ガス)と結合して臭いを不揮発化し、蛋白分解酵素を阻害し、新たな口臭ガスの発生を抑制します。

  • 即効性に優れ、約2~3時間効果があります。
  • ミント味でお口の中が爽やかになります。
  • スプレータイプのものは舌に2、3回ふきつけるだけですので、リンスタイプのものより効果は劣ります。出先での使用をお勧めしています。
  • 長期間の使用で舌に着色がみられることがありますが、問題はありません。
  • アルコールは5%だけ含まれています。

クロシスⅡ

米国の会社により開発されたもので、米国内でも店頭に置かれてないので、簡単に手に入りません。一番の特徴は、二酸化塩素による殺菌です。二酸化塩素殺菌というのは、発生する酸素が細菌の細胞膜を分解する酸化殺菌であり、いままでの塩素殺菌よりはるかに強力で即効性、持続性に優れています。

この二酸化塩素が口臭ガスに直接作用し、臭い分子を分解し、悪臭を除去します。口内のバクテリアを強力に殺菌するので口臭除去だけでなく、歯周病菌も抑えます。

  • アルコールフリー、シュガーフリーで低刺激です。
  • ほとんど味がついていません。
  • 約8時間効果が続きます。

使用方法

  1. 歯ブラシ、糸ようじ、歯間ブラシを使用してお口の中をきれいに磨く。
  2. 洗口液を口に含み、ブクブクうがいをする。(ハイザックは添付のコップに5cc程、クロシスⅡはキャップ1杯)
  3. のどの奥のほうにも洗口液を行き渡らせるためにガラガラうがいをし、その後吐き出す。

口臭予防洗口液についての説明をさせて頂きましたが、まず、お口の中を清潔にすることが一番の口臭予防になります。口臭がある、気になるからと言って最初から洗口液を使用されますと、何が原因で口臭が発生しているのかわからなくなってしまいます。

気になる方には、まず口臭検査を受けて頂き、原因が何であるのかをきっちり知って頂いた上で口臭予防洗口液の使用をお勧めしております。

<歯科衛生士 山田麻美>

2006年10月号

口臭治療 その10 最近のテレビ番組から

これまで、このコラム欄では口臭の話を系統的にお話してきましたが、今回は9月5日(火)、朝日テレビ「たけしの本当は怖い家庭の医学」で放送された口臭編について、気づいたことをお話します。

番組では、自分の口臭を気にしすぎるあまり、ひきこもりになってしまう自臭症の女性が紹介されていました。そして自臭症になりやすい人は、内向的で他人に気を遣う、きれい好きな女性であり、こういった自臭症は最近増加している現代病と報じられています。しかし、口臭の自覚がなく治療されずに放置されている病的口臭症については触れられていませんでしたが、こちらもまだまだ多いのは事実です。

その後、番組はゲストタレントへの口臭問診へと進みます。その内容は、1)歯を磨かずに寝てしまう 2)歯磨きで出血する 3)起床時口がねばつく 4)朝食を抜く 5)口渇 6)胃腸の調子が悪い 7)血糖値が高い の7つで、そのうち5個以上当てはまる人は要精査となっていました。しかし、6)胃腸の調子が悪い という項目は、あまり口臭に関係がないと思います。腸管で発生したガスが血中に吸収されて肺を通って口臭となる場合も時にはありますが、胃が悪くて臭いが直接食道を通じて上がってくることはまずありえないからです。また5個以上という条件になっていましたが、4個以下なら安心とは言えません。2)と3)は歯周病の症状ですから、それだけで口臭を疑うべきでしょう。

その後、番組はゲストの口臭検査へと移ります。そこで当院でも使用しているオーラル・クロマが登場します。これは現在、開業医レベルでは一番信頼のおける口臭検査機器ですから、納得できます。ゲストの教授は、朝食抜きはなぜいけないかという質問に対して以下のように答えています。それは朝食を食べると唾液がたくさん出て、就寝中に増殖した口臭の原因となる細菌を洗い流してくれるからという回答でした。しかしちょっと説明不足で、食事をとると唾液がでるだけではなく、食塊が舌の上を通ることにより舌苔が取り除かれ、また口腔内が酸性に傾き口臭が発生しにくくなるというのが正しい答えです。

番組では、口臭を歯周病と唾液の面からだけで捉えていましたが、もっと大きな要素である舌苔や舌クリーナーの話も出てくるべきであったと思います。

この種の番組が放送されると、きまって翌日当院では口臭検査の予約電話がかかります。マスコミの力には驚かされます。こと医学に関しては、面白半分に伝えるのではなく、医療現場が混乱しないようはっきりしたエビデンス(証拠)に基づいた報道をしていただきたいものです。番組はいつものように、「このまま放っておくと、たいへんなことになりますよ!」と言うたけしさんのことばでエンディングとなりました。

<院長>

2006年9月号

口臭治療 その9 口臭予防洗口液について

口臭を予防、治療するには歯みがきはもちろん、糸ようじや歯間ブラシでの歯と歯の間の清掃、舌クリーナーによる舌苔の除去、歯周病の治療などお口の中を清潔にしなければいけません。それでも口臭がなくならない場合や気になる場合に口臭予防洗口液の使用をお勧めしています。

口臭予防洗口液やスプレーとして市販されているものにはたくさんの種類があり、みなさんも御覧になったり、使用されたことがあるかもしれません。市販のものには洗口液自体に味や臭いがついていますので、使用直後はその味や臭いで口臭がなくなったように感じます(マスキング効果)。

しかし、口臭と洗口液の臭いが混ざって変な臭いになる場合もあります。そして、口臭は他から臭いをつけても完全に消すことができません。また、市販されているもののなかで、成分にアルコールが多く含まれているものがあり(従来のリ○テ○ンやモ〇ダ〇ンなど)、それらは刺激がとても強く、また、アルコールにより口が渇き、余計に口臭が出てくることもあります。ちなみにリ〇テ〇ンはアルコールが21.6%も含まれており、ウイスキーの約半分、日本酒より高い濃度です。

この濃度では飲酒の検問の際、アルコールが検出されるかもしれません。アメリカではアルコール含有量が多いことの警告の表示がありますが、日本のものには表示がありません。以上のことから一般に市販されている口臭予防洗口液の使用はあまりお勧めしておりません。

次回は当院で取り扱っている口臭予防洗口液のお話をいたします。

<歯科衛生士 山田麻美>

2006年8月号

口臭治療 その8 口臭に対する意識

4つのパターン

以前のコラムで、自分の息の臭いは自分では正確にはわからないと書きました。しかし、口臭治療を希望される方は、何らかの口臭に対する意識(自覚や他人からの指摘など)により来院されます。

口臭に対する意識と客観的な口臭の有無は、表のように4つのパターンが考えられます。

Aのタイプ:真性口臭症

口臭の意識があり、実際に口臭がある方なので、通院して頂ければ、適切な指導、治療により治癒します。

Bのタイプ:真性口臭症

実際に口臭があるにも関わらず、 ご自身にその意識がない方。周りは皆それに気がついて いても、「口臭があるよ」とはなかなか声をかけにくいもの です。そのため自分だけが知らないという気の毒な方で、本来一番治療を必要とするのに放置されている方です。

一般的な歯科治療時に、治療する側もその方に対し、「むし歯があります」とは言えても「口臭がありますよ」 とはなかなか言えないものです。なぜなら恥をかかされたと感情を害され、来院されなくなるかもしれないからです。

また、以下のようなケースもあります。初診時、口臭がありそうなので歯周治療の一環として口臭検査をご提案すると、やはり口臭ありと診断されるのはイヤだという人情からか、次の検査日までに急に歯磨きを励まれ、その結果口臭値がゼロだったということもあります。逆に言えば、それ位簡単に治療できるケースもあるということです。

ところで、「いくら強い口臭があっても自分ではわからない」というのは、悪いことばかりではありません。おいしそうな臭い、花や香水などのいい臭い、危険なガス漏れの臭いなどは、口臭に邪魔されずに感じることができるわけですから、口臭をオミットしているヒトの嗅覚のシステムはうまくできているものだと私は思っています。

Cのタイプ:仮性口臭症ないしは口臭恐怖症

実際には口臭がないのですから、そのことをコンサルテーションでご理解頂ければいいのですが、なかなかわかって頂けない場合もあります。はっきり言って、歯科医が自信を持って治せるといえるのは、A,Bタイプの90%位です。残りの治癒しにくい10%は以下のような方です。ハイザックのような口臭用リンスで口臭が直ぐ無くなるので、口腔内に原因があるにも関わらず、歯や舌にはほとんど汚れがみられない方。実際にこちらが口臭を感じるのにオーラルクロマでは検出できない成分の口臭を発しておられる方などです。

Dのタイプ

全く問題のない方です。

さてご自分はどのタイプになると思われますか。

気になる方はお気軽にスタッフや院長にご相談ください。

<院長>

2006年7月号

口臭治療 その7 舌苔と口臭 part2

今回は舌苔のとり方を紹介します。

舌をみがきましょう!

磨く箇所 舌クリーナーの方向

タオルやガーゼで拭くだけでは、舌の細い溝の間に入り込んだ舌苔を効果的に掃除することは難しいですので、専用の舌クリーナーでの清掃をお勧めします。当院では、プラスチック製の舌クリーナーを採用しています。

  1. 一日一回、朝の歯磨き前に歯磨き剤なしで行います。 口臭の気になる方は、夜にも行うと口臭予防にもっと効果的です。
  2. 鏡に向かって舌を「ベーっ」と突き出し、舌の奥にある大きなブツブツ(分界溝)の前の、一番盛り上がっているところに舌クリーナーを当て、手前に動かします。
  3. 力を入れず、押さえつけないように、軽く行います。
  4. 舌苔がついてこなくなるまで数回、繰り返します。
    ※多くても、10回以内にしましょう。(舌クリーナーに付いた舌苔の臭いを確かめてみてください。それがあなたの「口臭」の臭いです!)
  5. 舌から出血した場合、直ちに中止してください。
    ※舌が傷つき出血すると、血の臭いで、結果として口臭を強くしてしまう可能性が  あります。(30回以上こすると出血するというデータがあります。)

「オエッ」とならないためには?

  1. できるだけ舌を前に突き出しましょう。
  2. 息をとめて行いましょう。

一日一回、朝の歯磨き前に簡単にできる「舌みがき」、日々の習慣に取り入れてみてはいかがでしょう?

<歯科衛生士 正田千尋>

2006年6月号

口臭治療 その6 舌苔と口臭 part1

『舌苔』ってどんなものかご存知ですか??鏡の前で「あっかんべーっ!」 舌の奥表面に白や黄色のモヤーとしたものがみえませんか?それが舌苔です!!

舌苔の成分

  • 口の中の細菌(歯周病関連細菌)
  • 細菌の死骸
  • 唾液成分(タンパク質)
  • 食べかす
  • はがれ落ちた粘膜細胞

等から構成されています。

舌苔は口臭の産生工場!

舌というのは、小さな突起がたくさんあってデコボコしています。そこへびっしりと分厚く舌苔がついてくると、口臭の原因になります。もちろん歯周病も口臭の大きな原因となりますが、歯周ポケット※の表面積と舌の表面積を比べると 舌のほうがはるかに広いので、口臭の原因の多くを占めるのです。(※歯周ポケットとは、歯と歯茎の境目にある溝のことで3ミリ以上の深さがある場合をいいます。歯周病が進行すると歯を支えている骨が溶け、歯周ポケットの深さは増していきます。)

舌苔のつき方

舌苔の広がり方

舌苔は,食塊の流れに沿って付着するので、舌の根元から舌中央の後ろにかけてまず付着します。 舌の下には、唾液腺(舌下線、顎下腺)の開口部があり、そこから出る唾液の流れがあるため、唾液腺に近い舌の先にはほとんど付着しません。 しかし、口腔乾燥症などで唾液分泌が低下すると、唾液による洗浄作用が期待できないので、舌苔が 付着しやすくなります。


《正常な舌》

正常な舌

舌の奥に行くにつれて、うっすらと白い舌苔がついた状態をいいます。 起床時や疲れたときはこの舌苔の量は増えます。


《口臭の原因となり得る舌》

口臭の原因となり得る舌

白く分厚い舌苔が舌全体に付いている状態。いつもこのような状態であれば直ちに口臭の原因となるでしょう。

舌苔の除去は口臭予防のためだけでなく、歯周病の治療の際にも必要です。舌苔の中には歯周病の原因細菌がいますので、歯に付いている細菌(歯垢)をきれいにしても舌が汚れていると、舌苔の細菌がまた歯に付き、治療効果が上がりません。

次回は、舌苔の取り方について紹介します。

参考文献 安細敏弘:口臭と唾液乾燥症 デンタルハイジーン別冊2003唾液と口腔乾燥症より改編

<歯科衛生士 正田千尋>

2006年5月号

口臭治療 その5 唾液と口臭 part2

前回、唾液分泌が口臭を防ぐ要因の1つであることをお話しました。 では、唾液の分泌を増やすにはどうしたらよいのかを、今回のコラムでお話しすることにします。その前に、唾液はどのようにして分泌されるのか少し説明しておきましょう。

唾液は、三大唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)と小唾液腺(口唇・頬粘膜などに分布)から 分泌されます。

そして、それらは自律神経が支配しているため意志でコントロールすることはできません。つまり、唾液を出そうと思っても自分では出せないということです。 唾液分泌は咀嚼による物理的刺激や、味覚刺激によって行われるので、分泌を多くする一番簡単な方法はガムを噛むことです。

これは、口唇・顎・頬・舌などを動かすことによる唾液腺への機械的刺激にもなっています。どのようなチューイングガムが良いかについては、2月号のコラムに掲載しておりますのでそちらをご参照下さい。 唾液腺への機械的刺激という点では、耳や顎の下にある耳下腺・顎下腺を手指でマッサージするのも有効です。

また、大きく口を動かして会話し、よく笑い顔の表情を豊かにすることでストレスを回避し、自律神経を活性化するのも唾液分泌を促進する効果があります。当院へ口臭治療を希望されて来院される患者様の中に、口をほとんど開けずにおしとやかにお話になる方をよく見うけます。

おそらく、ご自分の口臭を気にされていて口の外にもれないようにとの配慮からかも知れませんが、それは逆で活発に口を動かしている方が唾液分泌を多くすることができると思います。

余談になりますが、口臭を気にして口に手をあてて会話をするのは絶対にやめたほうがよろしいです。

理由は以下の通りです。

まず、あなたが口に手をあてて話し出すと、それを見た相手の方はその方の口臭をあなたが感じたのであなたが手をあてたと勘違いし、相手の方も口に手をあてて話してしまいます。次にあなたはそれを見て、やはり自分には口臭があると思い込んでしまうことになります。

またさらに、 相手の方自身にも人に気づかれるような口臭があるのではないかと思わせてしまいます。 実際はどちらにも口臭がないのに、ともにあると思ってしまうわけです。

このようにして仮性口臭症になってしまうケースもあります。 平安貴族が扇で口を覆って会話していたような習慣は現代では必要ないのです。

<院長>

2006年4月号

口臭治療 その4 唾液と口臭 part1

唾液には、口腔内および全身の健康を維持するために以下のような働きがあります。

  1. 自浄作用(食物残渣を洗い流す)
  2. 湿潤作用(口腔内の乾燥を防ぎ、咀嚼・嚥下を助ける)
  3. 味覚の媒体(味覚物質を溶かし、味を感じやすくする)
  4. 消化作用(酵素のアミラーゼがでんぷんを消化する)
  5. 抗菌作用(リゾチームやラクトフェリンなどが細菌をコントロールする)
  6. 緩衛作用(pHを中性に戻そうとする) など。

これらの作用のなかで、口臭の発生と特に関係のあるものは自浄作用です。口臭は、口臭物質(VSC)が一旦唾液中に溶け、そこから揮発し、発生するものです。唾液が多量に分泌されると、口臭物質が希釈され、また唾液を嚥み込むことによりその量も少なくなります。また、VSCのもととなるお口の汚れ(食物・血液・剥離上皮由来のタンパク質)や口腔内の細菌も、唾液により浄化され減少します。

では、唾液はどのくらいの量が出ていればよいのでしょうか。当院の口臭治療では、唾液分泌速度を安静時唾液刺激唾液について検査しています。

安静時唾液とは、咀嚼や味覚などの刺激のない状態で分泌される唾液のことで、10分間自然に分泌される唾液を容器に受けて測定します。一方、刺激唾液は、味覚や咀嚼時の機械的刺激により分泌される唾液のことで、5分間ワックスを咬んでいるときに分泌される唾液を測定しています。各々、0.1ml/分および1ml/分以上が分泌速度の正常値です。

そしてこの2つの唾液分泌のうち、安静時唾液の方が特に口臭と関係が深いといえます。つまり、安静時唾液分泌量が正常値以下の場合は、VSC成分である硫化水素やメチルメルカプタンの値が高く、また、舌苔付着も多いことがわかっています。(※舌苔とは、舌の上に見られる白い苔のようなもので口腔内の細菌・唾液成分・食物残渣・剥離上皮細胞から成っています)

事実、唾液分泌量において、刺激唾液は正常なのに安静時唾液が少ない場合に口臭や舌苔の認められる方がおられます。

以上のように、唾液分泌は口臭発生に大きく関与しており、一般的に唾液分泌量が少ないと口臭値が高くなる傾向にあります。

次回は唾液分泌が少ない場合、どのように対処すればよいのかについてお話します。

<院長>

2006年3月号

口臭治療 その3 食事と口臭

今回はまず、次の質問に答えてみて下さい。

Q)口臭は食事をすると強くなるでしょうか、弱くなるでしょうか?

A)弱くなる 。

何となく強くなりそうに思えるのですが,食後に測定すると必ず食前より弱くなっています。その理由は以下のようになります。

  1. 食事をすると食物中の糖類が、だれの口の中にでもいる虫歯菌により分解され酸が産生される。その結果、pHが酸性に傾き、口臭物質(VSC)が出にくくなる。(前回コラム参照)
  2. 食塊が舌の上を通過していく時に,口臭の原因となる舌苔もいっしょに除かれ浄化される。
  3. 口臭物質(VSC)は、唾液に一旦溶けてそこから揮発してくるものなので、食事によって唾液が多量に分泌されると濃度が薄められる。

では食後、口臭はどのようになるのでしょうか。一旦pHが酸性に傾いた口腔内は、唾液の中和作用,緩衝能(中性に戻そうとする作用)により中性に戻ります。そして口の中が汚れたままだと、歯周病菌によりVSCが産生され、次の食事までの間徐々に口臭は強くなっていくのです。口臭はこのように、一日の中でも大きく変化するものです。

口臭の強さ日内変化

次に口臭の日内変化をみてみましょう。図は軽度の口臭症の患者さんの一日の動きを示しています。就寝中は、口腔細菌が増殖し、唾液分泌が非常に減少しているので、徐々に口臭値は高くなり、起床時に一日の最高となります。朝食をとると値はほぼゼロになりますが、その後上昇を始め、昼食前にピークになり、また昼食後、夕食後は同じパターンをとります。そして、人が悪臭と感じる強度(認知閾値)を超えた時、初めて他人に気づかれる口臭となるわけです。ちなみに、口臭治療では常時口臭値ゼロをめざすのではなく、相手に臭いが届かない強さに口臭を抑えることが、治療目標となります。

医院で行う口臭検査では、患者さんの一番高い値を知る必要があります。低いと分かっている時の値を知っても治療の参考にはなりません。そのため、検査時2時間前(できれば4時間前)までのご飲食および歯ブラシ,舌クリーナー、洗口剤等の使用をお控えになって受診していただいております。

次号では、口臭と密接な関係にある唾液について、もう少し詳しくお話させていただきます。

<院長>

2006年2月号

口臭治療 その2 キシリトールガムvs砂糖入りガム

今回はまず、次の質問に答えてみて下さい。

Q)キシリトールガム vs 砂糖入りガム口臭をよく抑えるのはどちらでしょうか。

むし歯予防になるキシリトールガムのほうが、口臭もよく抑えられそうですよね。ブッブッー正解は砂糖入りガムです。

理由はこうです。口臭(VSC:揮発性硫化物 本文参照)は口腔内のpH(酸性度)が中性からアルカリ性側で発生します。キシリトールは、虫歯菌によって分解されず、そのため酸が産生されないのでむし歯にならないというのが特徴です。だからキシリトールガムを噛んでも、口腔内のpHは変化せず中性からアルカリ性のままなのです。つまり口臭は抑えられません。一方、砂糖入りガムは、噛み始めるとだれの口の中にでもいる虫歯菌により砂糖が分解され酸を産生します。そして、口の中のpHが酸性に傾き口臭を抑えるというわけです。

口臭のある患者さんに、各々のガムを噛んでもらって口臭の値がどう変化するかを検査すると、キシリトールガムを噛んだ場合に逆に口臭の値が少しだけ上がることがあります。

これは舌苔中にこもっていた臭いの成分が、ガムを噛むことによってかき回されて発生するものです。

ではキシリトールガムは口臭抑制に全く効果がないのかというと、そういうわけではありません。一般にガムを噛むことにより唾液がよく分泌されます。そしてこの唾液には、口の中の汚れを洗い流してくれる自浄作用があります。口臭は口の中の汚れが細菌によって分解されて発生するものですから、その原因となる汚れを少なくすることは、時間とともに強くなっていく口臭を抑えることになります。

また、VSCは唾液に一旦溶けてから揮発して口臭となるものですから、唾液が多いと薄められるため口臭は抑えられます。

しかし、口臭がある人が、唾液が分泌されることにより、口臭がなくなってしまうということはありません。それほどの作用は唾液にはないということです。その点をお間違えのないように。

砂糖入りガムを患者さんに勧めるということは、口腔衛生指導上、むし歯予防の観点からはよくありません。普段はむし歯予防にキシリトールガムを、口臭がありそうでイザ誰かに会うというような時には、砂糖入りガムを、ということになろうかと思います。

<院長>

2006年1月号

口臭治療 その1 当院における口臭治療の現状

あけましておめでとうございます。

本年はこのコラムに口臭のお話を連載する予定ですので、ご期待下さい。

当院では、口臭治療を00年に開始し約500名の方の治療を行いました。私自身まだ口臭治療というのは、歯科治療の中でも難しい分野であると思っています。

その第一の理由は、対象が目に見えない気体であるという点です。歯科の他の分野のむし歯や歯周病は、さほど難しい検査をしなくても、実際に口の中をみたり、レントゲン検査などをすることによりある程度の診断はつきます。また患者さんご自身でも鏡を見るだけでも分かる場合もあります。ところが口臭はそう簡単ではありません。自分で自分の息の臭いは正確にはわからないのです。 それは口と鼻が近すぎて、自分の口の臭いには慣れてしまっているからです。口臭を測定するには、官能検査(ヒトの鼻で臭いをかぎ分ける検査)と、測定器を利用する方法があります。しかし官能検査では、正確に口臭の強度・質を判別し、数値化し記録することは困難なため、測定器を利用するのが一般的です。 正確に気体の種類とその濃度を測定するには、ガスクロマトグラフィーという高価で、専門の技師が必要な機器が最適です。しかしこの機器は大学の研究室で使われ、一般の歯科医院に設置できるようなものではありません。

当院では口臭治療を00年に始めましたが、当初はア〇イ〇という機器を用いていました。しかし、直接口臭ガスは測定できず、間接的に口の汚れを測定するもので、数値に非常にバラツキ、誤差の大きい再現性の低い機器でした。 しかし現在は、オーラル・クロマという市販されている機器の中では、もっとも優秀な機器を使用しておりますので、臨床的にほぼ正確な測定結果が出せるようになりました。 安心して検査を受けていただけます。

口臭治療が難しい第二の理由は、実際には口臭がないにもかかわらず、患者さまが気持ちの上で口臭があると強く思っておられるケースがよくみられるという点です。

口臭治療の本文にも書いていますように、口臭症の分類中の、仮性口臭症と口臭恐怖症がそれに当ります。この分類は、新潟大歯学部の宮崎先生により提唱され、宮崎の分類として世界的に通用しているものです。 この分類で興味深いのは、この二つが実際には検査では口臭がないにもかかわらず、口臭症の中に含められていることです。 この二つは、自臭症ともいわれ元々、神経内科的にとらえられて命名された疾患です。 口臭症はかなり社会性の強い疾患であるといえます。たとえば孤島でただ一人で暮らしているなら問題は起こらないのですが、大勢の人々とかかわりをもって生活している現代社会においては、問題となることがあるのです。

各大学のデータでは患者さまの割合は、・生理的口臭症、・口腔由来の病的口臭症、・仮性口臭症がおおむね各々1/3ずつとなっています。しかしネットで検索して当院を受診される患者さまのなかには、かなりの率で仮性口臭症の方がおられます。 こういった患者さまのなかには、オーラル・クロマで測定し数値的にも口臭が認められなかったという結果をなかなか信じていただけない場合があり苦慮するところです。逆に実際に口臭の認められる病的口臭症の方が、適切な治療により簡単に口臭がなくなる場合が多くみられます。

病的口臭症の90%位は比較的簡単に口臭を下げることができますので、口臭が気になる方は一度受診されてはいかがでしょうか。まず検査によりどのタイプの口臭症であるのかの診断をし、治療をはじめていきます。

<院長>

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