院長・スタッフのコラム

2021年12月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その127

Q:歯科と睡眠は関係ないですよね?
A:× 大いに関係があります!歯科治療の際に命にかかわる病気の兆候を発見できる可能性があります。

あなたは寝ている時にいびきをかいていませんか?
最近閉塞性睡眠時無呼吸という病気が社会問題になっています。寝ている間に息が十分にできず、酸欠になってしまう病気で、その兆候がいびきです。閉塞性睡眠時無呼吸は、高血圧症、糖尿病、脳卒中、狭心症、心筋梗塞、認知症の危険を高め、放置すると命取りになりかねません。また昼間の眠気のために交通事故を起こしてしまうこともあります。

さて、では閉塞性睡眠時無呼吸と歯科がどういう関係があるのでしょうか?
実はいびきをかいて酸欠状態の、眠りが浅い時に起きやすいのが「歯ぎしり」です。
歯ぎしりをすることで、歯の咬耗(こうもう)、頬や舌に残るくいしばりの痕、被せ物の傷みが起こりますが、いびきをかく人のお口にはこれらの特徴的な痕がよくみられるのです。その他にも、舌が大きくて閉塞を起こしやすい患者さんや、チェアに仰向けになっていただいた途端にいびきをかいて寝てしまうかたもおられます。これらのサインから、睡眠時にいびきをかいておられるのではと想像され、歯科はその先にある閉塞性睡眠時無呼吸に気付きやすい分野なのです。

もし、「自分は閉塞性睡眠時無呼吸かも?」と思ったら、まず医科で睡眠時無呼吸の検査と診断を受けてください。おもに軽症、中等症のかたが歯科のマウスピース型の口腔内装置の対象となり、医科からの紹介でその作製を歯科が担当することになります。空気を送り込んで呼吸を助ける医科のCPAP(シーパップ)治療は大変効果的な治療法ですが「風圧や音が気になる」といった声も聞かれます。一方、歯科の口腔内装置は、顎を少し前に固定することで舌を前方へ引き、垂れ下がりを防ぎ、気道を確保して就寝中の酸欠を改善することができます。当然ながら音はしませんし、電源もいらず小型で、持ち運びにも便利です。ただし、寝ている間顎を少し前に固定していますので、顎関節に問題がある方は使用できません。また、横向きに寝る、鼻呼吸の癖をつけるなど、自分でできる改善法もありますので、ぜひトライしてみてください!

閉塞性睡眠時無呼吸は命に関わる病気です。少しでも思い当たることがあれば、検査と診断、治療を受けましょう。

次回のQは・・・・
「虫歯が多いのは糖分をたくさん取っているから?」

歯科衛生士 長船瑞稀

2021年11月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その126

Q:被せ物は人工の歯だから虫歯にもならないし、元の歯よりも強いですよね?
A:×被せ物の耐久性を決めるのは患者さん自身の残った歯の根っこです。大きな治療をした歯は元の歯よりもだいぶ弱くなっています。

虫歯の治療が終わった後、「被せ物は人工の歯だから虫歯にもならないしこれで安心」と油断していませんか?硬い金属やセラミックだから「歯が強くなった」と思われがちです。しかしこれは実は大間違いなのです。その理由は被せ物の構造にあります。

被せ物の治療は虫歯ができたり歯が欠けてしまった時に、食事や会話、見た目に差支えるため、元の歯の機能と形を人工的に復元しようという治療です。被せ物の治療というと、被せに目が行きがちですが、耐久性を決めるのは歯を支えている患者さん自身の歯根です。

被せ物の治療とは虫歯になった部分を除去し、残った歯を土台にしてはじめて可能になる治療法です。大工事で残すことのできた歯は、元の歯に比べると虫歯に対しても、噛む力に対しても弱くなっています。もちろん被せ物自体は一定の耐久性を備えていますが、それを支える土台の歯はケアを怠ると虫歯や歯周病になってしまいます。被せ物と歯の継ぎ目は、ちょうど歯ぐきの溝の中に隠れる位置にあります。歯ぐきの溝といえば、プラークが最も溜まりやすい場所です。油断をして、歯ぐきと被せ物の境目の辺りを丁寧に歯みがきしていないと、プラークが溜まり虫歯の温床となってしまいます。さらに困るのは、虫歯が被せ物に隠れて広がるので外からは見えにくい点です。そのうえ神経を取ってある歯の場合、内側で虫歯ができても痛みを感じません。ですから患者さんご自身が気付くことは非常に難しく、発見が遅れてしまうケースもしばしばです。たまたま他の歯の治療で歯科医院に受診した際、レントゲンで偶然見つかるケースが多く、普段から歯科医院に通ってメンテナンスを受けていないと、早期発見は非常に難しいのが現状です。また虫歯が深く入り込んでしまい、噛む力に耐えられずに歯根が割れてしまうこともしばしばです。割れてしまった歯は、ほとんどの場合抜かざるを得ません。歯ぎしりがある場合は特に注意が必要です。

ところでしっかり付けてもらったはずなのに、また虫歯ができるのはなぜでしょうか。被せ物と歯はセメントで付けますが、セメントは極わずかではありますが徐々に崩壊していきます。そして、そこから虫歯菌が入り込み、虫歯になるのです。極論すると自然の歯が一番強いと言えます。

お口の中に被せ物がある方は、痛みがなくても定期的なメンテナンス受診を始めましょう。歯科のプロと一緒に土台の歯を守り、被せ物の寿命を延ばしてきましょう。

次回のQは・・・・
「歯科と睡眠は関係ないですよね?」

歯科衛生士 小川綾加

2021年10月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その125

Q:定期的に歯科に通っている患者さんは認知症になりにくい?
A:○ 歯周病予防がアルツハイマー型認知症の発症抑制につながることが明らかになりました。これは歯科医科連携における一大トピックスです。

歯周病になるとアルツハイマー型認知症の原因物質「老人斑アミロイドβ」が激増することがわかりました。(老人斑アミロイドβとは、アルツハイマー型認知症の原因と考えられている異常なたんぱく質。脳内に溜まって神経細胞を壊し、脳を委縮させてしまいます。)
研究報告によると、アルツハイマー型認知症で亡くなった患者さんの脳内から、歯周病に最も関係する菌「Pg菌」が発見されたというのです。
よく、歯周病は心臓病、糖尿病、早産など全身の健康に関係していると聞きますが、まさか認知症にも関係性があるとは驚きでした。

そもそも歯周病は、歯周病菌が引き起こす感染症です。歯周病菌は、歯周病の炎症でできた歯ぐきの粘膜の破れ目を入口にして血流に乗り、歯ぐきの内部はもちろん、からだにも自由に入り込んでいます。長い間歯周ポケットの中に溜まったプラークや歯石を掃除しないと歯周病菌にとって居心地のいい棲家になってしまいます。
なかでもアルツハイマー型認知症の原因物質の増加に関与するPg菌は、腫れた歯ぐきからの浸出液や血液が大好物なので放っておくと、まるでPg菌にエサを与えているような状態になります。
Pg菌が歯ぐきにたくさん入り込むと歯ぐきにいる免疫細胞は必死になって戦います。
免疫細胞はこのとき「カプテシンB」というたんぱく質分解酵素をたくさん出します。カプテシンBは、本来不要なたんぱく質を片付けるための酵素ですが、過剰に存在すると免疫細胞によってやっつけられたPg菌だけでなく周りの細胞も傷付けてしまい、異常なたんぱく質を増産します。それこそが「老人斑アミロイドβ」です。老人斑アミロイドβはいわば免疫細胞の過剰反応が引き起こす負の副産物なのです。

これまで老人斑アミロイドβは脳でつくられ、それが脳に蓄積されていると考えられてきました。しかし最近の研究によると実際は意外なことに、歯周病菌による炎症が起きている歯ぐきでさかんにつくられていることが明らかになりました。しかし本来老廃物が直接脳に届かないように脳を守るために血液脳関門という関所があるのですが、それを通過しやすくするのもPg菌の仕業であることも判明しました。

まさか歯周病が認知症発症に関係しているとは思ってもいませんでした。
毎日のお口のケアが認知症予防につながるのであれば今まで以上に歯みがきをしっかり頑張りたいですよね。そして定期的にメンテナンスにご来院頂き、一緒に予防していきましょう!認知症になりたくなければ、日々の歯磨きと定期的な歯科への通院を‼

次回のQは・・・・
「被せ物は作り物の歯だから虫歯にもならないし元々の歯よりも強いですよね?」

歯科衛生士 佐野 成美

2021年9月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その124

Q:親知らずの抜歯を先送りしています。たまにうずく程度なので、様子をみておけばよいですよね?
A:×慢性的な炎症があるわけですからこのまま治ってしまうことはありません。抜歯を勧められているのでしたら、今のうちに抜きましょう。

骨の中で横向きに埋まっている親知らずや、傾いて頭だけが出てきている親知らずはありませんか?そのような親知らずは次のような危険性があります。

  • 1)前の歯との間に食べかすが溜まり、むし歯になります。前の歯の歯根の深い部分にむし歯ができてしまうと治療が非常に困難になります。
  • 2)歯ぐきに炎症が起こります。智(ち)歯(し)周囲炎(しゅういえん)とよばれ歯ぐきや頬に腫れや痛みが生じ口が開きにくくなります。
  • 3)前の歯を圧迫し噛み合わせが悪くなり噛むと痛みを生じます。
  • 4)長く埋もれたままだと嚢胞(のうほう)ができ、前の歯の歯根を溶かすこともあります。また歯ぐきの炎症は最悪、舌の下、頬や首へと広がり蜂窩(ほうか)織炎(しきえん)を起こし、入院が必要になることもあります。

親知らずは疲れた時やストレスがかかった時に悪化しやすいので、受験、就職等人生の大事な場面で起こりがちです。抜歯を先送りするのはやめましょう。また、二十歳くらいで完成する歯ですから、年齢が上がり長く埋もれたままになっていると顎の骨と歯が癒着して、抜歯がいっそう難しくなるケースがあります。抜く方も抜かれる方もしんどいのです。なるべく若いうちに抜くのが賢明でしょう。さらに妊娠中に親知らずの抜歯をするのは危険ですので、若い女性はそれまでに抜いておくのが安全です。

処置は通常1時間ほどで終了します。ほかの歯の抜歯と異なる点は、骨の中に埋まっている部分が多いので、顎の骨を削って頭を出してから抜かなければならないところです。手順としましては、出てきた歯の頭を削って分割して取り除きます。その後、歯根をゆすって埋もれた部分を引っ張り出すというものです。小さな手術ですので勇気がいりますが、時間や体力に余裕があるときに受診しておきましょう。矯正治療をお考えの方は、治療で歯並びがきれいになった後に、親知らずのせいで歯並びが乱れてしまうことがありますので、矯正の先生と相談して抜歯の時期を決めるのが良いと思います。

なお上の親知らずは比較的トラブルになることは多くありません。また真っ直ぐに生えて上の歯と噛み合わさっている親知らずは敢えて抜く必要はありませんが、そのようなケースはまれです。

次回のQは・・・・
「定期的に歯科に通っている患者さんは認知症になりにくい?」

歯科助手 里 香奈子

2021年8月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その123

Q:虫歯(う蝕)は人に感染(うつ)る?
A:〇 多くの研究により、う蝕は細菌感染症であることが解明されていますので、う蝕は人に感染ります。

風邪をだれかから感染(うつ)されるというのは理解できますが、虫歯を感染(うつ)されるとは考えにくいと思います。隣に虫歯のある人がいても、いきなり自分の歯に虫歯の穴があくということはありません。しかし現在う蝕は細菌感染症であることが明らかにされています。細菌によって人体で一番硬い組織である歯に穴が開く病気というのも不思議ですね。

さて1950~60年代に無菌動物ではう蝕が発生しないこと、また連鎖球菌の一種によってう蝕が発生し、他の実験動物に感染させることが可能であることが発見されました。それ以来多くの研究により、う蝕は細菌感染症であるとされており、う蝕は人に感染(うつ)ります。

ではその虫歯菌(ミュータンスレンサ球菌)はどこからくるのでしょうか。口をあけたところへ空から降ってくるわけではありません。生まれたばかりの歯のない乳児の口の中から虫歯菌は検出されません。1980年代虫歯菌は母子の垂直感染であることが確認されました。つまりお母さんから感染(うつ)っているわけです。一番初めに生えてくる下の前の乳歯が萌出しだすと、歯の表面に少しずつ虫歯菌が定着し始めることが知られています。

ところでう蝕は虫歯菌が歯面に強固に付着するところから始まります。次に虫歯菌は食物中のショ糖を代謝し、ネバネバの物質(不溶性グルカン)を作りより強固に歯面に付着しプラークを形成します。虫歯菌は飲食物や菌体内に蓄えた糖分を分解し酸(乳酸、ギ酸など)を産生し、その酸によって硬い歯を溶か(脱灰)していきます。口腔内の細菌叢は、乳歯が生え揃う3歳ごろまでに確立し、一度口腔内に定着すると減少させることが困難で、う蝕になりやすくなるといわれています。また虫歯菌の定着はショ糖によって促進されるため、この時期まではできるだけ不必要なショ糖は摂取させないように心がける必要があります。

ではどうすれば虫歯菌の感染が防げるのでしょうか。お母さんから感染(うつ)るのですから、お母さんに未治療の虫歯があってはいけません。虫歯の治療、口腔衛生指導、プロによる口腔清掃、フッ素塗布などが予防策としてあげられます。実際どのような場合にお子さんに感染(うつ)るかというと、主に食器の共用からです。お母さんが使って唾液のついたコップ、お箸などをお子さんに使うのは一番よくありません。しかし1回の行為で虫歯菌が感染(うつ)るわけではなく、それを繰り返し行った場合なので、あまり神経質になりすぎることはありません。

次回のQは・・・・
「親知らずの抜歯を先送りしています。たまにうずく程度なので、様子をみておけばよいですよね?」

院長

2021年7月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その122

Q:エナメル質形成不全症ってめずらしい症状なのでしょうか?
A:〇 千葉県の小学校の大規模調査では10人に1人のお子さんに、エナメル質形成不全が見つかりました。決してめずらしいものではありません。

エナメル質形成不全症(MIH)とは、エナメル質が先天的に脆い状態をいいます。永久歯の前歯と6歳臼歯に見られることが多く、見た目は初期虫歯の白濁とは少し異なりマット感のある白色、黄色っぽい変色です。原因は不明ですが、歯が顎の骨の中で育っている時、エナメル質が十分に成熟しないことによって起こると考えられています。

前歯の場合は通常強い力がかからず、プラーク(歯垢)が溜まりにくい部位であるため、欠けや虫歯といったトラブルが起こることは少ないです。一方、問題が起こりやすいのが奥歯です。6歳臼歯のように、噛んだ時に強い力を受ける歯がMIHであると、歯が崩れたり欠けたりしやすくそこにプラークが溜まると虫歯になります。

通常の奥歯の虫歯は噛み合わせの溝や、歯と歯の間など、プラークの溜まりやすい場所から始まるものですが、MIHを原因とする虫歯は、歯の山(咬頭)、つまりプラークは溜まりにくいが力がかかって崩れやすい場所にできることが多いのが特徴です。

この先天的な原因によって起こる虫歯は、早期に発見することができれば、的確な処置を受けその後の治療の見通しがつけられます。お口の健康を長期的に維持するには可能な限り歯質を守り神経を保存して歯を長持ちさせていくことが重要です。

そのためにはまずできるだけ早期に生え始めた永久歯の奥歯のMIHを発見して、経過観察を始めましょう。もしエナメル質が欠けたり崩れたりしたら、直接歯に接着できるレジンで補修し補強して歯冠の新たな崩れを防ぎます。それにより歯の強度が増すうえ、ピタリと封鎖することで知覚過敏や内部への細菌の侵入を防ぐことができます。

MIHを早期発見するためには、学校の検診に加えて歯科医院での検診も受け、その後も定期的なメンテナンスを続けて大切な歯を積極的に守っていきましょう。

次回のQは・・・・
「虫歯は人に感染する?」です。

歯科衛生士 小川綾加

2021年6月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その121

Q:口臭はほとんどの原因がお口の中ってホントですか?
A:〇 口臭の原因の90%はお口の中にあるといわれています。胃が原因ということはまずありません。

お口のお悩みの代表格ともいえる“口臭”。皆さんも一度は気にしたことがあるのではないでしょうか。特に最近は新型コロナウイルスによるマスク生活で、マスクの中にこもったご自分のにおいに初めて気づいたという方も増えています。

実は口臭は、誰にでもある程度は存在するものです。朝起きてあくびとともに息を吐き出したとき「あ、口がにおうな」と思ったことありますよね。でもその後、朝食をとったり歯みがきしたりするうちに気にならなくなるはずです。これは“鼻が慣れた”からではなく、お口の中のにおい物質が食事や歯みがきで一時的に減っているからです。一日の中で自然に増減するこうした口臭は専門用語で“生理的口臭”と呼ばれます。

一方、強いにおいを持続的に発する口臭は“病的口臭”と呼ばれます。いわゆる不快な口臭と客観的に認識されやすいもので、においの原因が無くならない限り存在し続けます。
原因には歯周病などのお口の病気と、お口とつながっている鼻や咽喉の病気、内臓などのからだの病気が考えられます。よく「からだの病気のにおいが口からにおう」という話を聞きますが、余程重篤な病気でない限り割りあいとしてはごくわずかです。また胃が悪いから口臭があると言われる方もおられますが、食道は普段は閉じているものですから胃のにおいが上がってくることはありません。90%はお口の中が原因といわれています。

お口の中の原因として考えられるのが、歯周病と舌の汚れです。歯周病が進行すると歯周ポケットにはプラーク、血液、細菌の代謝物などが溜まり強いにおいを発します。次に舌の汚れである“舌苔”です。舌苔は舌の上を覆っている白いコケのようなものです。歯は毎日磨いているという人でも、意外に忘れていることが多いのが舌のお掃除。舌苔は唾液や血液、剥がれ落ちたお口の粘膜、食べかすなどから成り、細菌によってその中のタンパク質が分解され強いにおいを発生します。

口臭が本当にあるかどうかは、まず口臭測定器による検査をお勧めします。また口臭を防ぐにはお口の中をきれいにすることが何よりも大切です。歯ブラシや糸ようじなどを使い、歯をきれいに磨いて頂き、舌苔は舌専用の舌クリーナーでお掃除して頂きます。意外と自分流の磨き方では汚れが落としきれていないこともあるので定期的に歯科へご来院頂き、磨き残しや舌苔のチェックなどされるといいでしょう。

次回のQは・・・・
「エナメル質形成不全症ってめずらしい症状なのでしょうか?」です。

歯科衛生士 佐野 成美

2021年5月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その120

Q:入れ歯ができてから気を付けることはありますか?
A:〇 はい。出来上がった後の調整と毎日のお掃除が大切です。

入れ歯が出来上がるまでには、型取り・上下の噛み合わせ位置の確認や途中の段階での試適などを経て1カ月ほどかかります。「やっとできた!」と喜ばれる方に「次回調整をさせていただきます。」とお伝えすると、「えっ!調整?!」と驚かれる方も少なくありません。入れ歯が本当の意味でお口にぴったりと収まるようにするには、その後の調整が欠かせないのです。完全オーダーメイドのスーツと同じと考えてください。

型取りは精巧にさせていただいていますが、それは静止した状態のお口にすぎません。元々入れ歯の載る粘膜の型を取るのは難しいのです。硬い歯と違って柔らかい粘膜は押さえると変形し、粘膜の厚さや硬さも部位によって同じではありません。入れ歯の型取りは力のかかった粘膜の一瞬を捉えているだけです。出来上がった入れ歯で実際に食べたりお話をしたりしていただき違和感がないか確かめる必要があります。

ご自分に合った入れ歯に欠かせない要素は、噛んだ時に動かないことです。噛んだ時にグラグラ動いたり浮いたり沈んだりしたら、食べづらいですし粘膜がこすれて痛いですよね。それに、入れ歯が動いてしまうと、噛んだ時の力が入れ歯からあご全体にうまく分散されず、残った歯も粘膜も傷んでしまいます。また入れ歯はご自分で着脱していただくものですので、クラスプ(バネ)がご自分の指の力で容易にはずせて、かつ食べるときにははずれない強さに微妙な調整をする必要があります。そのために当院では、完成した入れ歯をお渡しした翌日に調整にお越しいただいております。完成して終わりではなく、調整をすることでより使いここちの良い入れ歯になるのです。

そしてもう一つ大切なことが、毎日のお掃除です。
まず初めに入れ歯用のブラシで汚れを落とします。人工歯は小さい方のブラシで磨き、歯の側面など広い面が大きい方のブラシを使います。クラスプや汚れの残りやすい裏側も磨きましょう。磨いた後に洗浄剤でさらに汚れを落とします。汚れたままの入れ歯は誤嚥性肺炎の原因にもなりますので、ご自分の歯と同じように入れ歯もしっかり清潔にしておきましょう。また細菌繁殖を24時間防ぐ入れ歯専用スプレーのEtak(イータック) オーラルケアもお勧めです。

次回のQは・・・・
「口臭はほとんどがお口の中が原因ってホントですか?」です。

歯科助手 里 香奈子

2021年4月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その119

Q:タバコは歯周病に悪いということですが、新型タバコは大丈夫ですよね?
A:× 紙巻タバコより少ないとはいえ有害物質を多く含むので全身にも、口腔にも悪い影響を与えます。

新型タバコとは、従来の燃焼式の紙巻タバコ以外の新しいタバコ製品とタバコ類似製品の総称であり、「加熱式タバコ」と「電子タバコ」に大別されます。加熱式タバコは、たばこの葉を電気で加熱し、発生する蒸気を吸引するタイプで、アイコスやプルームテックなどがこれに該当します。一方電子タバコは、液体を電気的に加熱して発生させた目に見えない煙(エアロゾル)を吸引するもので、葉タバコを原料としないのでタバコ類似品です。

新型タバコは目に見える煙が出ませんが、加熱に使うのが火なのか電気なのかが異なるだけでタバコであることに違いはありません。依存性の強いニコチンやニトロソアミン、アルデヒド類などの発がん物質、循環器・呼吸器疾患の危険性を高めるさまざまな有害物質が、量はやや少ないものの含まれています。発売されてまだ数年しか経っていないので長期的な健康への影響を評価するデータはまだ十分ではありませんが、紙巻きたばこより害が少ないという確実な医学的根拠はありません。また「煙が出ないから受動喫煙で迷惑をかけない」というのは誤解で喫煙者が吐き出す息には多くの有害物質が含まれ周囲の空気を汚染し、受動喫煙を発生させます。従って公共の場、公共交通機関での使用は認められていません。

日本で使用者が多い加熱式タバコの口腔への影響については、まだほとんど研究されていませんが、含まれるニコチンは口腔に何らかの影響を与えると推測されています。
電子タバコについては、紙巻きタバコと同様に吸わない人より歯周病になりやすいことがわかっています。また、試験管内の研究では、電子タバコエアロゾル曝露によりミュータンス菌の歯面への付着力が増加します。さらに電子タバコ使用者には口腔乾燥症やニコチン性口内炎、口角炎などが高頻度にみられます。

紙巻きタバコからの禁煙のため加熱式タバコを使用しようとする喫煙者がおられるようですが、その切り替えによる禁煙効果は明らかにされていません。全身的にも口腔内の健康にも悪影響を及ぼす喫煙。禁煙には、市販の禁煙補助薬の使用や禁煙外来の受診をお勧めします。

次回のQは・・・・
「入れ歯ができてから気を付けることはありますか?」です。

院長

2021年3月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その118

Q:歯周病だとウイルス感染しやすい?
A:〇 最近の研究では、歯周病菌の出す毒素がウイルスの細胞への侵入を容易にするばかりか、ウイルスのパワーを増強することが分かってきています。

ウイルス感染から身を守るための有効な手段は、マスクの装着・手洗い・うがい・そして栄養と休息などの体調管理ですね。これらに加え、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために現在強く推し進められているのが「3密(密閉空間、密集場所、密接場所)」を避ける工夫です。そしてもうひとつ、ウイルスに対する防御力を上げる方法として、みなさんにぜひお勧めしたい方法があります。それは「ていねいな歯みがき」です。なぜ歯みがきなのと思われるかもしれませんね。

100年前のスペイン風邪のパンデミック下にアメリカで行われた調査によりますと、歯周病の人のスペイン風邪の罹患率は歯周病でない人の2倍以上でした。当時はなぜこのような大きな違いが出るのかわかりませんでした。しかし現在の研究では、危険なウイルスが体内に入り込む際に「歯周病菌がその手引きをしている」ことが明らかになってきています。

コロナウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルスはみな、生きた細胞に入り込まないと生きられず、ノドの粘膜細胞のレセプター(細胞の膜にあるウイルスの入口)に吸着すると、スルリと内部に侵入し、自分の遺伝子を細胞のなかに放り込みます。そして乗っ取った細胞のタンパク質やエネルギーを使って、自分の遺伝子を増殖させていくのです。しかし通常ノドなどの粘膜の細胞は、粘液で覆われて隠れており、ウイルスが細胞のレセプターに吸着しようとしても、なかなか吸着できません。この機を逃さずガラガラうがいをすれば、ウイルスを追い出すことができます。「外から帰ったら必ずうがいをしましょう」というのは、こういう理由からです。ところがこの粘液による防御作用が弱くなってしまう場合があります。そこに関わっているのが、思わぬ伏兵、歯周病菌なのです。

お口の中に歯周病菌がたくさんいると、歯周病菌の出す毒素が粘液の層を溶かして壊します。するとウイルスの標的である粘膜細胞のレセプターが露出し、吸着が容易になってしまいます。つまり歯周病菌は、ウイルスが素早く体内へ侵入できるように手引きをしてしまうのです。さらに、歯周病菌の出す毒素は、ウイルスのもつ「細胞の入口を開ける鍵」をパワーアップさせてしまうこともわかっています。こうした歯周病菌の凶悪さは、インフルエンザウイルスの研究によって解明されたものです。コロナウイルスも、細胞のレセプターに吸着し侵入する点で共通することから、同様に「歯周病菌の手引きを受けている」とみて間違いないでしょう。

歯みがきを怠ってプラークが溜まったり、歯周病菌の巣になった歯石を放置したりしていると、歯周病になってしまいます。コロナから身を守るには、マスク・手洗い・うがい・体調管理と3密を避けることに加え、「ていねいな歯磨きをしてふだんからお口の中を清潔にし歯周病を予防すること」と覚えておきましょう!

次回のQは・・・・
「タバコは歯周病に悪いということですが、新型タバコは大丈夫ですよね?」です。

歯科衛生士 小川綾加

2021年2月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その117

Q:インプラントを入れた後、メンテナンスが大事ってほんと?
A:〇 とても大事です。痛みや違和感がなくてもメンテナンスに通院するのが長持ちさせるために不可欠です。

インプラントは被せから歯根に当たる部分まで、完全なる人工物ですのでインプラント自体は細菌に強いです。もちろん虫歯になることはありません。しかし、インプラントが埋まっている周りの歯茎は別で,天然歯(普通の歯)と同じように歯周病(インプラント周囲炎)になる恐れがあります。

インプラントと天然歯との違いの1つは「歯茎の繊維のバリアがない」ことです。
天然歯では周囲の歯茎の内部に繊維が伸びていて、歯と密接に絡みついています。これは、歯と歯茎の付着を強化するほか、体内への細菌の侵入を防ぐバリアの役割も担います。いわば歯の首に当たる部分をぎゅっと絞めている感じです。歯を失うと、この繊維も一緒に失われます。そのためインプラント周囲の歯茎は細菌に弱く、「歯周病」になりやすいのです。

もう一つの違いは歯根膜の有無です。天然歯は歯根と歯槽骨が薄い線維で強固に結ばれており、噛む力に対してクッションになっています。ところがインプラントには歯根膜がなく歯槽骨に直に結合しているので、過剰な力がかかると歯槽骨にトラブルが起こります。

天然歯に起こる歯周病と、インプラントに起こる歯周病。どちらも犯人が歯周病菌なのは変わりません。歯周病は、歯の根元周りに付着した細菌がまず歯茎に炎症を起こし、腫れや出血が現れます。いわゆる「歯肉炎」ですね。これが悪化するとあごの骨が溶けてなくなり(実際は体の防御反応で吸収されている)「歯周炎」となります。
インプラントの歯周病も進行の仕方は似ています。インプラントに付着した歯垢がそのまわりの歯茎に腫れや出血を起こします。これは「インプラント周囲粘膜炎」とよばれセルフケアの見直しや簡単な治療で元に戻ります。しかし悪化すると,歯槽骨にも炎症が及ぶインプラントの歯周炎=「インプラント周囲炎」となります。周囲炎が進むと骨が失われて、インプラントは抜けてしまうこともあります。

インプラントを入れた後、忙しかったり痛みや違和感がなかったりするとメンテナンスをお休みしてもいいかな?と考えてしまう方も残念ながら少なくありません。
ですが、患者さんが異常を感じてから来院されても対応が難しいことが多いです。早い段階で発見できれば元に戻せますし、インプラントを失わずにすむ可能性が高まります。そのためにも定期メンテナンスには欠かさずご来院下さいね。

以上、インプラントを入れたのちのメンテナンスの重要性をお話ししましたが、もし、歯が抜けた原因が歯周病なら、まず歯周病を治してからインプラント治療をすることをお勧めします。

次回のQは・・・・
「歯周病だとウイルス感染しやすい?」です。

歯科衛生士 佐野 成美

2021年1月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その116

Q:妊娠してから歯ぐきが腫れやすくなり、歯磨きをすると出血します。大丈夫でしょうか?
A:△ 歯ぐきが腫れているだけの状態(歯肉炎)であれば、プラークと歯石をきれいに取れば、1~2週間で腫れが引きます。まずは歯磨きが重要です。

歯ぐきが腫れるのは、歯周病菌が悪さをしているのが原因です。歯周病菌の中には、妊婦さんの体内で盛んに分泌される女性ホルモンを栄養源とするものがいて、普段歯ぐきが腫れない人でも歯肉炎(妊娠性)が起こることがあります。この段階ではプラークと歯石をきれいに取れば元に戻ります。歯石は歯科医院で取ってもらってください。しかし、歯肉炎を放っておくと、歯を支えている骨まで破壊され始め歯周炎に進んでしまいます。こうなると治療が複雑になり、妊娠中には治療が困難になる場合もあります。歯周病は低体重児出産(早産)と関係するともいわれているので、妊娠前の検診はとても大切です。

歯周病の一番の予防は、歯磨きを丁寧にしてお口の中を清潔に保つことです。しかし、妊娠中はつわりで歯みがきがつらい方も多いでしょう。そういう時は体調の良い時に1日1回だけでもいいので丁寧に歯みがきをするのが良いです。それも難しい場合は食後に強めのブクブクうがいをしたり、嘔吐直後にも胃酸で歯が溶けないようにうがいをしてください。歯磨き剤の使用がつらいときは無しでも構いません。嘔吐感が出やすい方は、薄型ヘッドや細型ネックの歯ブラシやY型フロスもおすすめです。

こうした予防を頑張っていてもお口の状態に異変を感じた場合は、お早めにかかりつけの歯科医院で診てもらいましょう。
妊娠中でも基本的には通常の歯科治療を受けられますが、安定期である妊娠中期が安全でしょう。

歯科受診の際には・・・

  • ①産科の主治医にご相談の上、ご予約下さい。その際妊娠中であることをお伝え下さい。
  • ②当日は保険証と共に「母子健康手帳」をお忘れなくご持参下さい。
  • ③産科の主治医に注意を受けていることがあれば、お申しつけ下さい。

悪化する前に受診される方が小さな治療で終わり、疲れずに済みます。早期に歯科検診を受けて、歯周病を治療&予防しましょう!

次回のQは・・・・
「インプラントを入れた後、定期的なメンテナンスが大事ってホント?」です。

歯科助手 里 香奈子

  • お役立ち情報一覧
  • 歯科用語解説集
  • 院長・スタッフのコラム
  • 酸蝕症
  • 歯周病9つのギモン
  • 歯磨きの達人