院長・スタッフのコラム

2013年12月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その31

Q:歯と歯の間によくものが詰まります。それらを取るために、つまようじを使っていいですよね?
A:△ つまようじは歯ぐきの中に、食べカスを押し込む危険性があるのでお勧めしません。

歯間空隙歯間乳頭が下がって、
広がった歯間空隙

つまようじは、食ベカスを掻きだせるような形にはなっていません。ですから、歯と歯の間(歯間空隙)に落ち込んでしまった食べカスを無理に取ろうとすると、歯ぐきの中へ押し込んでしまうことがあります。そうなると歯ぐきが炎症を起こし、化膿してしまいます。

そもそも歯間空隙にものが詰まるのはどのようなときでしょうか。

  1. 歯周病が進行して歯が動揺している
  2. 歯周病や歯ぎしりによって歯間乳頭が下がってしまった
  3. 隣接面に虫歯ができて隙間ができた
  4. 隣接面の詰め物や被せ物がとれた

このようなときに、ものがよく詰まるようになります。

歯周病が治まり歯の動揺が止まったり,動揺歯を固定したり、虫歯の治療をして歯と歯がしっかり隣り合うようになると咬合面からは、ものがつまらなくなります。しかし、歯周病や歯ぎしりで一旦下がってしまった歯間乳頭は、自然に元の状態に上がってくることはほとんど望めません。歯間乳頭は歯ぐきの中で一番デリケートな部分です。歯間乳頭が下がって隙っ歯になると審美的にも悪くなります。歯ぐきの手術をしても再生はなかなか困難です。そして露出した歯根は歯冠より軟らかくてむし歯になりやすく、また治療のしにくい部位なのです。これを根面齲蝕とよびます。

このように繊細な部分ですので、それなりのお手入れが必要です。歯ブラシだけでは歯の内側(舌側)と外側(頬側)と咬合面しか磨くことはできません。汚れやすい隣接面もきれいにしなければならないので、そこで登場するのが補助清掃用具と呼ばれるフロス歯間ブラシなどです。

フロスは糸ようじと呼ばれる用具で、歯間空隙の狭い時に使用します。一方歯間ブラシは歯間空隙が広くなった時にフロスよりも効率よく汚れを取るために使用します。歯間空隙は部位によって大きさがことなるので、何種類かのサイズが用意されています。狭い歯間空隙に太い歯間ブラシを通すと余計に歯間乳頭が下がってしまったり、無理に通すと中心の針金で歯根が削れたりし、また逆の場合は効果が出ません。健康な歯肉にはフロスが適しており、歯間ブラシは使用すべきではありません。ともに歯科医院でどのグッズがご自分の歯に適しているかの指導を受けて使用されることをお勧めします。

TVのCMを鵜呑みにして自己流で使用するのはやめましょう。

次回のQは・・・・
「フッ素入りの歯磨き粉をつかっているけど、量は歯ブラシの先に少しつけるだけでいいでしょ?」です。

<院長>

2013年11月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その30

Q:外科手術をした後は普通の食事は食べられないのですか?
A:× 負担をかけない程度に軟らかい物なら問題ありません。

患者さんに外科手術をする前に何か心配なことはありますか?と聞きますとほとんどの人は「手術後の食事のことが心配。」と、言われます。

まずは手術の直後、まだ麻酔が効いていて唇、舌、頬などがしびれている時は、全般に食べるのを控えて下さい。たとえシュークリームのように噛まなくてもよい食物でも食べない方がいいです。なぜなら、お口の中や周りの感覚がないため、唇を噛んだり舌を噛んだりし易いからです。

よく患者さんに麻酔はどれくらいで醒めますかと聞かれますが、完全に醒めるには3~4時間かかります。

その間の飲み物は、熱い物は火傷をする危険性がありますので、冷たい物をとるようにして下さい。

外科手術を受けた後一週間ほどは、噛む力で傷口が開きやすく、力を加えると傷の回復も遅くなってしまうことがあります。また、インプラントの埋入手術後は、骨とインプラントの一定の結合期間中は特に力をかけないようにしなければなりません。

スムーズな治療のため2週間程度は、負担をかけない軟らかい物を食べるようにしましょう。また、傷口がふさがるまでは、しょう油、酸味、香辛料は強烈にしみるので避けた方が良いでしょう。

軟らかい食事となると、ついついおかゆなどの炭水化物に偏りがちになってしいますが、栄養バランスにも気を付け、体調良く過ごしましょう。そのことは良い治療結果につながります。また、糖尿病や高血圧などの全身疾患のある患者さんはカロリーや塩分にも注意が必要です。

とはいっても、食事は毎日のことですし、そのたびいろいろ考えるのは気が重くなる方もいらっしゃるかもしれません。そんな時、手軽でおすすめなのがレトルトの「ユニバーサルデザインフード」です。

軟らかさが区分1~4の四段階に分けられていて、選びやすく栄養表示も分かりやすくなっています。また、おいしく薄味で彩りもきれいです。

区分1は「容易に噛めるもの」、区分2は「歯茎でつぶせるもの」、区分3は「舌でつぶせるもの」、区分4は「かまなくてよいもの」になっています。スーパーやドラッグストアで売っているので上手く活用しましょう。

その他、ゼリー飲料やカロリー飲料、ヨーグルト、野菜ジュースなども当座の栄養補給の助けになります。ぜひ、取り入れてみてください。

次回のQは・・・・
「歯と歯の間によくものが詰まります。それらを取るために、つまようじを使っていいですよね?」です。

<受付 田中由香>

2005年8月から当コラムの掲載を開始し、今月号で通算100号となりました。また本年は開院25周年の節目の年にあたります。今後もできるだけ長く、皆様に歯科情報の提供を続けていこうとスタッフ一同思っていますので、ご愛読のご継続よろしくお願い申し上げます。

<受付 スタッフ一同>

2013年10月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その29

Q:親が歯周病なら、私も歯周病になるの?
A:× 歯周病自体は遺伝しません。

皆さんのなかには、ご両親が歯周病だと自分も将来、歯周病になるのではないかと、心配されている方がいらっしゃるかもしれません。

歯周病自体は、直接遺伝するわけではないので、一般的にはその心配はいらないと言えます。

ところが、歯周病は歯周病菌の感染が原因で起こるものなので、遺伝的リスクの影響も少しは受けています。つまり細菌に対する体の抵抗力が強いか、弱いかという体質の影響があります。また歯並びが悪いとプラークが口の中に残りやすいので、悪い歯並びが遺伝すると歯周病になりやすいと言えます。しかし歯周病自体が遺伝により発症するわけではありません。

歯周病の原因は、やはり後天的な要素の方が強いです。虫歯も歯周病も細菌感染が原因ですから、原因菌をたくさん持っている人と一緒に暮らしていると、細菌感染のリスクが高くなります。ある研究によりますと虫歯菌は母親、父親、兄弟とその遺伝子型の一致率が高く、歯周病菌については夫婦間で一致率が高くなっています。つまりそれら近親者の間で細菌が伝搬しているわけです。

また、生活習慣も一因です。軟らかく噛み応えのないものを好んで食べているとプラークが付きやすいので、同じ軟らかめの食事を食べていると、家族中でプラークが付きやすいお口になってしまいます。その上、ブラッシングの習慣も家族で似ていることが多いので、家族中でしっかり磨けていなかったりします。

さらに喫煙の問題もあります。家族のだれかが、たばこを吸っていると、周りの人は副流煙を吸ってしまい免疫力が落ち、歯周病になりやすくなってしまいます。

治療を始めるのなら、一人だけでなく、家族全員、または夫婦で、一緒に治すことが合理的で効率が上がりやすいのです。

家族全員で歯科医院を受診して下さい。

次回のQは・・・・
「外科手術をした後は普通の食事は食べられないんですか?」です。

<歯科衛生士 神田和美>

2013年9月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その28

Q:歯磨き粉は、研磨剤がたくさん入っているから歯が削れるので使わない方がいいの?
A:× 最近の歯磨き粉は研磨剤の粒子が細かくなっており、歯が削れる心配はありません。そのうえ、ほとんどの製品に虫歯予防に必要なフッ素が入っているので使って頂いたほうがいいです。

昔の歯磨き粉はタバコのヤニ取りのために、今と比べて確かに粒子が荒くザラザラで、さらに泡立ちもすごく、味も辛かったようです。短時間しか磨いていないのに、口いっぱいの泡とヒリヒリした刺激に耐えられず、早々に歯磨きを終えてしまう方も多かったでしょう。そのため当時は歯磨き粉を付けずに水だけでの「カラ磨き」を勧めた歯科医や衛生士も多かったようです。また歯磨き粉を付けるにしても、豆粒くらいにしてくださいと指導がされておりました。

しかし、今の歯磨き粉の研磨剤は粒子が細かく、硬度もより軟らかなため研磨性は低いのですが、少ない研磨剤でも汚れがよく取れるよう研究されています。中には歯の表面についた汚れを浮かせて剥がしやすくしている製品も出ています。

また、虫歯予防に役立つ働きをするフッ素が、現在日本で販売されている製品の約9割に配合されています。フッ素の効果を最大限に引き出すには口腔内での濃度を上げ、長時間維持することが大切です。そのためには歯磨き剤をタップリ付け、じっくり長時間磨き、少量の水でうがいしてフッ素を口の中に残すようにしましょう。

因みに歯磨き剤が改良された昨今において、歯が削れる要因は、大きな歯ブラシで力強く磨いていたり、歯ぎしりや噛みしめなどがあったりする場合と考えられます。

次回のQは・・・・
「親も歯周病なので、私も歯周病になるの?」です。

<歯科衛生士 小川綾加>

2013年8月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その27

Q:インプラントは人工の歯だから、病気にならない?
A:× 虫歯にはなりませんが、歯磨きがおろそかだと粘膜の炎症が起こります。

正常像正常像 歯の解剖図歯の解剖図

インプラントの素材は、チタンとセラミックスです。ですから虫歯菌に侵されて虫歯になって穴があくことは絶対にありません。一旦顎の骨と結合した インプラント(フィクスチャー)は非常に頑丈です。揺さぶっても全く動揺はしません。一方 天然歯歯根歯根膜という弾力のある線維で 歯槽骨と結ばれているので、それがクッションになって健康な歯でもわずかな動揺があります。そのためクッションのないインプラントには、大きな咬合力がかかります。特に歯ぎしりや咬みしめなどの過剰な力がかかると、上部構造が欠けたり、アバットメントを締めている小さなネジが折れたりすることがあります。そのような場合、ほとんどのパーツは取り替えがきくので修理可能です。予防的に就寝時にマウスピースをはめていただきインプラントを保護することもあります。

このような上部構造やアバットメントの破損などは単に修理だけで回復可能ですが、インプラント周囲の粘膜の炎症はやや問題が複雑になります。それはインプラント周囲の粘膜は天然歯程は強くなく、歯根膜がないためフィクスチャーが直接歯槽骨に結合しているからです。インプラント治療が完了し物が噛めるようになったあと、歯磨きが悪いとプラーク中の細菌によって歯周病と同じ状態になり、放置すると最後にはグラグラになってしまいます。初期段階ではインプラントの周囲の粘膜だけの炎症で、インプラントを支える顎の骨にはダメージは及んでいません。この状態を インプラント周囲粘膜炎と呼びます。この場合はブラッシングの改善と医院での徹底したクリーニングによって炎症が止まり元の粘膜に戻ります。

インプラント周囲炎インプラント周囲炎

しかし炎症がもっと深く進行すると、フィクスチャーのまわりの顎の骨が破壊され、フィクスチャーとの結合が損なわれてしまいます。この状態を インプラント周囲炎と呼び、最悪の場合インプラントはグラグラになり抜けてしまいます。インプラント周囲炎の治療はいわゆる歯周外科手術と同じく、粘膜を切開して深部の汚れを徹底的に洗浄、除去するのですが、フィクスチャーの表面にはネジ山が切ってあったり、微細な凹凸があるので完全に清潔にするのはなかなか困難です。

折角時間と費用をかけて入れたインプラントですから、患者さんご自身のしっかりした歯磨きと、歯科医院でのメインテナンスで長期にわたって快適な状態を維持していきましょう。

次回のQは・・・・
「研磨剤がたくさん入っているから歯が削れるので使わない方がいいの?」です。

<院長>

2013年7月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その26

Q:糖尿病の人は歯周病になりやすいの?
A:○ 逆に歯周病の人は糖尿病になりやすいとも言えます。

最近テレビでも紹介されることがあるのでご存知の方も多いと思いますが、糖尿病と歯周病は相互に関係があると言われています。

歯周病が関連する全身疾患は心臓病、早産、肺炎など色々ありますが、歯周病と双方向で関連があると分かっている全身疾患は今のところ糖尿病だけです。

例えば、歯周病があると早産を起こしやすい。でも早産の傾向のある人が歯周病になりやすいわけではないのです。また歯周病になると心筋梗塞になりやすい。しかし心筋梗塞になりやすい人が歯周病になりやすいわけではありません。

では、なぜ歯周病と糖尿病の場合は双方向に関連があるのかをお話ししましょう。

以前から、糖尿病になると歯周病になりやすいことがわかっています。それは糖尿病になると免疫機能が低下し、炎症を起こしやすくなるのに加え、血流が悪くなっているので傷の治りが遅くなるからです。そのため糖尿病のかたは細菌感染によって起こる歯周病になりやすいのです。

一方、歯周病になると糖尿病が悪化することが近年明らかになってきました。歯周病は慢性的に炎症が口の中にあるため、歯周病菌が出す毒素が血中に入りやすい状態にあります。炎症が起きた歯茎から血管に入った毒素は、インスリンの働きを鈍らせ細胞へのブドウ糖の取り込みを邪魔します。そのため歯周病になると血糖値がなかなか下がらなくなるのです。

つまり、歯周病は糖尿病を悪化させる可能性があります。実際に歯周病を患っている糖尿病の患者さんが歯周病の治療をしたら血糖値が下がったという報告もされています。

糖尿病のある方は歯周病予防のために毎日のプラークコントロールを欠かさず行いましょう。また歯科医院で早めに治療を受け、定期的にクリーニングも心がけましょう。

傷が治りにくかったり、炎症を起こしやすい糖尿病の患者さんの場合、そうでない方の治療にくらべ、特別な配慮が必要になります。そのため、受診の際には、糖尿病であることを必ず伝えてください。

次回のQは・・・・
「インプラントは人工の歯だから、病気にならない?」です。

<受付 田中由香>

2013年6月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その25

Q:骨粗鬆症の薬を飲んでいることは歯科に伝えておいた方がいいですか?
A:○ 抜歯やインプラントなどの口腔外科処置で顎骨の壊死する副作用がまれに出ることがあるので、服用のことをお伝え下さい。

最近は骨粗鬆症の薬を服用されている方が少なくないと思いますが、歯科医院で服用のことを伝えていますか?

ビスフォスフォネート系の薬剤は骨粗鬆症の治療によく使われる薬で、骨密度を上げ、骨折予防にとても有効です。しかし服薬中に抜歯やインプラントなどの骨を扱う口腔外科処置をした場合に顎骨の壊死の副作用がまれに出ることがあり、一度壊死に陥るとなかなか治癒しません。その頻度は内服薬で0.01%位ですので、1万人に1人程度です。また外科処置がなくとも、口の中が不衛生な方や義歯が合わず歯ぐきに傷がある方も壊死の副作用が出る場合があります。特に長期にわたって(三年以上)ビスフォスフォネート系の薬剤を服用している方はリスクが高まるので注意が必要です。さらにステロイドを服用している、糖尿病がある、抗がん剤治療をしている方は、よりリスクが高くなります。

そのため飲んでいる薬の名前、どのくらいの期間飲んでいるのかなどについて教えて頂くか、お薬手帳をお持ちください。ビスフォスフォネート系の薬剤を服用している方で注意して頂きたいのは、ビスフォスフォネート系の薬剤の副作用を心配して服用を自己判断で中断されてしまうことです。副作用が起こると言っても本当にまれなことなので、口腔外科処置を行う場合休薬するかどうかは、まず歯科医院で相談して下さい。あくまでも自己判断での服用中断はお止め下さい。

それに、お口の中を清潔にしていればビスフォスフォネート系の薬剤を飲んでいても顎骨の壊死をかなり予防できますので、口腔ケアを徹底し、定期的にお口のチェックとクリーニングを受けることをお勧めします。

次回のQは・・・・
「糖尿病の人は歯周病になりやすいの?」です。

<歯科衛生士 神田和美>

2013年5月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その24

Q:口臭があるのは胃が悪いから?
A:× まずそのようなことはありません

少し前までは、口臭が疾患として認識されておらず、検査機器も普及していなかったため、医師も歯科医師も胃が悪いことが原因で口臭を発すると信じていた頃がありました。実際、今でも口臭に悩んで内科を受診し、口臭検査もせずにただ胃薬を処方されておられる患者さんもいます。

口から出るにおいの90%は口の中に原因があります。それは、正しい歯磨きや舌ブラシの使用でたいていは改善されます。そしてその他残りは鼻やのどが原因といわれています。

しかし、胃の内容物は臭い。口は胃と繋がっている。だから口から出るにおいは胃が原因だと考えたくなります。ところが、胃と口を繋いでいる食道は単なるパイプではありません。食べたものが入ってきたときだけ開いて、蠕動運動によって食塊は胃の方へ送られるのです。つまり食道は普段は閉じたパイプなのですから、においが絶えず上がってくることはありません。もちろんゲップをしたときは、胃の中のにおいがそのまま上がってきます。汚い話ですがそのにおいは胃の内容物、嘔吐物のにおいそのものであって、ときどき感じることがあるかもしれない他人のいわゆる口臭とは別のにおいのはずです。

また、ときどき便秘の時に口臭が強くなるとおっしゃる方がおられます。つまり宿便からのにおい成分が血中に入り、ガス交換時肺から呼気に混ざっていると思われているようです。もしそうなら、便は臭いものですから、絶えず口臭があってもよさそうですが、そんなことはありませんし、上記の胃の話と同じで、いわゆる口臭は便のにおいとは異なりますね。

以上、口臭が気になる方は迷信に囚われず、まずは歯科で正確な口臭検査を受け、正しい診断を得ることから始めましょう。

次回のQは・・・・
「骨粗しょう症の薬を飲んでいることは歯科で伝えておいた方がいいですか?」です。

<院長>

2013年4月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その23

Q:歯を抜く時は、血液をサラサラにする薬の服用を中止した方が良いですか?
A:× 抜歯をする場合も、服用は止めないでください

先日、来院された患者さんが「歯を抜いて欲しいから血液をサラサラにする薬を今日は飲んでいないです。だから今日、歯を抜いてもらえますか?」とおっしゃっていましたが、それは実は大変危険なことなので、ご自身の判断で勝手に薬をやめることは決してしないで下さい。

「血液サラサラの薬」とは、抗血栓薬のことで、脳梗塞や心筋梗塞の治療と予防のために服用し、血管を詰まりにくくする働きがあります。つまり、服用されている患者さんは、確かに血が止まりにくくなっていると考えられます。

この抗血栓薬には大きく分けて2種類あり、血液凝固因子を抑制するワルファリンなどの抗凝固剤と血小板の働きを弱めるアスピリンなどの抗血小板薬です。近年までは、血が止まらないと困るからという理由で、抜歯を行う場合は抗血栓薬を中止すべきというのが医師と歯科医師の共通認識で、術前3~7日休薬していました。

しかし、休薬することはつまり脳梗塞や心筋梗塞などの病気の治療や予防を中断してしまうということで、その分発症のリスクが高まり、命にかかわる危険性もあります。

実際、調査報告によるとワルファリンの中止によって起こる血栓・塞栓症の発症は休薬した人の約100人に1人に起きる可能性があります。

国内に数百万人いるという服用者の数を考えると100人に1人とはかなりの発症数です。

そこで、今では歯科と医科が密接に連携をとり抜歯の後にしっかりと止血処置を行うのであれば抜歯は可能であり、むしろ抗血栓薬を中断しない方が安全だということになりました。

冒頭のような場合、局所の状態によってはすぐに抜歯できない時もあるので、ご自分の勝手な判断で休薬するのは大変危険です。必ず医師や歯科医師に相談し、指示を受けましょう。

次回のQは・・・・
「口臭があるのは胃が悪いから?」です。

<受付 田中 由香>

2013年3月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その22

Q:妊娠中は母子手帳を歯科に持って行った方がいいの?
A:○ 必ず持って行って下さい

妊娠の届出をした方に配布される『母子健康手帳』を手に取ってみたことがありますか?

実はこの中に、歯科の項目があることをご存知でしょうか?

そのページには『フッ素化合物の応用』や『妊婦と虫歯や歯周病の関係』などお母さんに関係のある事だけでなく、『歯の生える時期』や『初めての歯磨きのポイント』など赤ちゃんのお口の中の健康に関することも書かれています。是非一度読んでみてください。

そして、手帳には妊娠中と産後の歯の状態のページがありますので、一度ご来院頂き妊娠中のお口の状態を書きとめておきましょう。

まれにですが、お母さんの歯周病菌の毒素によって早産や低体重児出産がおこることがあったり、出産後の赤ちゃんとの頻回の食器の共用や赤ちゃんへのくちづけなどによって虫歯菌を徐々に移してしまうこともあります。

その他にも、産後急に歯周病が悪化したり、生活習慣の変化により虫歯が増えたりすることがありますので、妊娠中から、出産後も定期的に歯科を受診するようにしましょう。

また、母子手帳に載っている赤ちゃんの1歳半検診・3歳児検診はとても重要ですので必ず受診し、これらの記録もしっかり残すようにしましょう。

次回のQは・・・・
「歯を抜くときは、血液をサラサラにする薬の服用を中止したほうが良いですか?」です。

<歯科衛生士 南 奈保子>

2013年2月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その21

Q:妊娠しているけど麻酔を打っても大丈夫?
A:○ 実質的には問題ありません。

以前にも 妊娠中に歯や歯肉が悪くなることがあるとお話しましたが、今回は妊娠中の歯科治療についてお話しします。

妊娠前に歯科治療が完了し、虫歯や歯周病の不安がないというのが理想です。しかし、妊娠中に治療が必要となることもあります。その場合、歯科治療が胎児に影響を与えないか心配になられるでしょうが、そのまま虫歯や歯周病を放っておくこともよくありません。

みなさんが一番心配になられるのは麻酔でしょうか?

妊娠中に歯科治療を行う際に使用する局所麻酔は多量でなければほぼ問題ありません。子宮収縮作用のある一部の麻酔薬も妊娠後期を避ければ使用可能です。むしろ、麻酔をせず痛みを我慢して治療することは母体にとってストレスになりよくありません。一方、適量の局所麻酔薬を使用して痛みを緩和すればスムーズに治療ができるので母体への負担を軽減すると共に胎児への影響をも避けることができるのです。

最近は放射線被ばくが気になる方もいらっしゃると思いますが、適確な診断や治療にはレントゲン撮影が必要なのです。その場合、歯科用レントゲン撮影1枚当たりの平均線量は年間自然放射線量の100から200分の1ですし、防護エプロンを着用するので実質的には問題ありません。

しかし、妊娠初期の胎児は発育が最も活発で放射線感受性が高く、ほかの時期よりはレントゲン撮影の影響を受けやすいので注意が必要です。できれば安定期の5カ月目に入ってからか出産後の治療をお勧めします。

次回のQは・・・・
「母子手帳を歯科に持って行った方がいいの?」です。

<歯科衛生士 神田和美>

2013年1月号

「歯科 ウソ&ホント」シリーズ その20

Q:電動歯ブラシの方が手用歯ブラシより、よく汚れが取れる?
A:△ 汚れが取れにくい歯の部分もある

皆さんは電動歯ブラシを使ったご経験はありますか。

私は歯周ポケット内のプラークもきれいになるとの謳い文句の音波歯ブラシの新製品のモニターをしたことがありますが、短時間で歯がツルツルになり、これはすごいと思いました。

しかし少し時間がたつと、歯の表面がまたぬるぬるしてきました。あれほど気持ちよく汚れが取れていたのになぜだろうと考えました。その結果わかったことは、電動歯ブラシには得手不得手かあるのではということでした。つまり毛先のよく当たる平滑面は、手用ブラシに比べると高頻度に擦れますが、毛先の当たりにくい隣接面歯頸部に汚れが残ってしまうわけです。それらの磨き残しからプラークがまた付着していくと思われます。

実際どの種類の歯ブラシでプラークがよく取れるかの研究データによると、手用歯ブラシ>電動歯ブラシ(往復運動をするもの)>音波歯ブラシ>超音波歯ブラシの順だったそうです。

ところでよく磨けたかどうかのチェックは、みなさんどうされていますか。

多分舌先で上の歯の外側を舐めてツルツルかどうか調べるのではありませんか。電動歯ブラシの場合はほんとうにツルツルになります。つまりこの感覚に騙されてしまうのです。もちろん漫然と電動歯ブラシを口に突っ込むのではなく、毛束のきわや先の部分を確実に隣接面や歯頚部に意識して当てればよいのですが、歯ブラシ自体が高い周波数で震えているのと、指先ではなく掌で握って使うので、指先に微妙な感覚が伝わりにくく細かな部分に毛先が届いているかを感じにくいため、動かし方が、手用歯ブラシよりおおざっぱになりがちです。

このようなことからいえることは、電動歯ブラシを使う方も手用歯ブラシでどこをきっちり磨く必要があるかを分かっていて使うべきであるということです。患者さんの中には、電動歯ブラシを無意識に使っておられ、お口の状態は一見きれいなのですが、よく見ると細かいところが取れていない方を時々お見受けします。

このような観点から当院では歯磨き指導をする時、電動歯ブラシをお使いの方でもまず手用ブラシで基本をマスターして頂いております。しかし、スピーディに磨ける利点があるのですから、朝の忙しい時は電動歯ブラシを使い、夜はしっかり時間をかけて手用歯ブラシを使うのもいいかもしれません。手用できっちりできている方はあえて電動歯ブラシを使わなくてもよいと思います。

次回のQは・・・・
「妊娠しているけど麻酔を打っても大丈夫?」です。

<院長>

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